神戸大阪間の沿線は、最も理想的なる郊外住宅地として、芦屋、住吉、杭瀬、夙川、香櫨園等々数へあけると際限がありません。
なにしろこの附近には高級サラリーマンや、会社の重役連の文化住宅がゴロヽして、不景気風は どこを吹いてゐるのか、まるで別世界の感があります。
然し、俸給が多かつたり、財産のある人間がみんな真面目であるとは限つてゐません。事ろ事実はその反針で、プロ階級ば安つほい酒でも呑む以外には楽しみはありませんが、金のある人はさう簡単 に人生を片づけるわけには参りません。
ですから、阪神間にあるダンス・ホールは神戸市内にあるそれよりもずつと美人が多いし、出入する客種がもつと上流であつたり、ホールの規模が壮大であつたりすることは、少しも不思議ではありま せん。
仏教信者からはまるで生仏さまのやうに云はれてゐる大谷尊山氏などが、チヤキチヤキのモガと喰つき合つて踊りたからと云つて、別にそれは不思議でもなんでもないのです。
宝塚会館、大物のキング、東長洲前のパレス、杭瀬のダンス・ホールなどは上流の御夫人や、そのマドモワゼルたちの最もよきうさ晴しの場所でなければなりません。
辰馬家の若奥様が若い安月給取と一緒になつたり、山緒ある実業家の令夫人が外人と六甲ホテルに雲隠れしても、或ひは又脂肪ぶとりにふくれ上つたトツチヤンボーイがダンサーを娘のやうに見せびらかせて歩いても、そんなことはたいした問題ではありません。
たゞいけないことは、変なナイトクラブをつくつたり、怪しからぬ映画を若い職業婦人に見せたりすることです。
かなり以前にも六甲クラブと云ふのが検挙されて、ビール樽みたいな禿頭連が頭をペコく下げてやつと勘弁してもらつたことがありますが、咽喉元すぎれば何とやらで、最近はこの種のクラブが又二つ三つ出来たやうです。そのたびにダンサーなどが引合に出されたのでは一寸可愛さうですから、彼女たちにはせいぜい仮装舞蹄会や、野球チーム位のところで喰ひとめてやつて欲しいものです。
あまりあばき散らすとどんな飛ばつちりが来ないとも限りませんから、阪神沿線のナイトクラブは只あるといふことだけに止めてをきませう。
その申わけといふわけでもありませんが、阪紳沿線ダンス、ホール評判配を二つ三つ記載してお茶を濁します。