南京街のエロ風景

今は昔ほどでありません。

なにしろ当局のダンアツがひどかつた為に、南京街のエロ風景は著しく減殺されて了ひました。怪しい行為をしてゐる支那人は見つけ次第にとつちめて、油をしぼつて脅しつけて、挙句の果に本国へ送還といふ手痛い扱方でしたから、支那のストリートーガ―ルは、殆んど神戸の土地から姿を消して了つたと云つてもいゝ位です。

いまでは三宮駅前と下山手五丁目にたつた二軒の台湾芸妓の置屋があつて、僅かに支那情緒の余影をとゞめてゐるに過ぎません。両方あはせて芸妓の数は十人もゐませうか、何れにしてもはかない寂れ方と云はねばなりません。然も、それさへ当局の眼を恐れて、遠慮しいしい悲しい営業をつゞけてゐます。

駅前では万香居、下山手(県庁裹)では喜月亭、この二軒の家で遊べばニンニク臭い台湾芸妓が御対手してくれますが、なにしろ日本に対して余り好感を抱いてゐません。ですから支那人に対してはど んな要求でも受け容れるさうですが、日本人に対してにすべてが万事といふわけには参らぬといふ。

一寸の虫にも五分の魂とやら、エロの世界に対しても厳然たる国境を設けてゐるところなど、まことに凛然たる意気愛すべきらのがあるではありませんか。

線香代は日本芸妓同様、普通一時間見当と云はれてゐますから、あのウラ寂しい支那の縮綿たる情歌でもきゝたい人は、彼女たちの怒りを柔げ慰めるために、あれ抜きにして遊びに行つてやった方がよろしい。

一寸の虫に瓦分の魂と云つても、恋の道には国境はありません。意気さへ投合すればそこはそれ―ネ?