どこ迄も近代性の明るみを求めて発展するミス神戸。上筒井の原つぱが今日のやうな大歓楽郷にならうとは、お釈迦さまでも御存知なかったに違ひない。
神戸高商と、関西学院の存在することによって、僅かに市内の一隅を穢してゐた上筒井通の今日の賑はしさは如何です。
阪神急行の基点として、宝塚行の乗場として、今や上筒井は新開地に次ぐ盛り場となったではありませんか。
殊に日曜祭日などのあの雑踏ぶりをごらんなさい。それはまるで恋の行列とも云ふべき明るさです。
ランデ・ブーに出かける男女を乗せた数十数百の自動車や、女を待つ男、男を待つ女、二人づれ、三人づれ、若夫婦、老夫婦、いやはや驚歓すべき朋らかさです。
すぐ近くの青谷は昔から男女の密会場所として有名なもの、現在では立派なホテルが出来て、彼と彼女等を待ってゐます。
摩耶山の登山口もこの近くだし、摩耶ホテルヘ疾駆する自動車も夥しい。
以前は古本屋と文房具屋ばかりバカに沢山ゐつた街だが、今日では右も左もカフェーです。バーで す。何々会館です。
而も新開地や三宮などゝちがつて、新興地帯だけに当局の取締もいくらか寛大に扱つてゐるせいか、エロ女給のサービスもなかヽ垢抜けがしてゐます。
だから、たいして酒も呑めないモボがワンサワンサで押かけます。
道頓堀の美人座などが、いち早く上筒井へ進出したのも、要するに先見の明があつたからでせう。氣の利いたバーやカフェーをざつと拾つてみても、グロリー、ブルゴン、ボンベアン、デンバー、サロン日本、ブリユー・バード、ヴイクトリヤ・クラブなど、化粧品の陳列みたいに並んでゐます。
なにしろ、日本人だけをお客にしない神戸では、外人の出入する店が頗る多い。ブリユウバードなどは寧ろ外人向と云つてもいゝ位です。
それからもう一つ忘れてならないことは、 を発表するわけに行かないし、その巣窟が一定しないから時に当外れがないとも限らないが、野崎通から布引方面へかけては非常にインテリ・マダムの多いことだけはたしかです。
最高値段が円見当だといふから、たちのいゝガイドなどに出会はしたらいろんな交渉をしてみるのも面白いでせう。
行きあたりばつたりに
「おい、どこか面白い所はないか」と訊ねて見る位の度胸がほしいものだ。